(6号)中国を考察する―――中国の海外膨張政策・米国との覇権争い
1.習近平政権に入り、中国は第一第二列島線なるものを勝手に設定した。
第1列島線とは、 中国が勢力圏を確保するため、海洋上に独自に設定した軍事的防衛ラインの一つ。九州沖から沖縄、台湾、フィリピンを結び南シナ海に至る線を指す。
第2列島線とは、中国がさらに外洋に設定した線で、小笠原諸島や米領グアムを経由してパプアニューギニアに至る防衛ラインである。
上記方針に基づき、中国は今海洋進出を着々と実行している。国際社会にとって困ったことは、同国はこれまで国際的に定められた国境線を無視し、他国の島を占拠し、それを軍事要塞化しようとしていることだ。
最近の事例では、フリッピンのEEZ内にあるスカロボ礁で巡回中のフィリッピン巡視船に中国の海警局船が体当たりし、今月15日、フィリッピンは巡視船を同礁から引き上げると発表した。即ち中国の無法行為に対し、フィリッピンは撤退せざるを得なかったことになる。東アジアでは日本固有の領土である尖閣諸島を中国の領土だと主張し、中国海警船と日本の巡視船が対峙している。
2.米中関係の歩み
第2次世界大戦後、中国国内で、蒋介石国民党と毛沢東中国共産党の対立が再燃し、米国は長く蒋介石を支援し、中国共産党と対立していた。然し、1972年2月21日、ニクソンは突如、中国・毛沢東主席を訪問し、20年間にわたる敵視政策を転換させることを約し、両者は米中共同宣言(上海コミュニケ)を発表した。
- 体制間の相違を相互に認め、それを超えて「平和共存五原則」に基づき国際問題及び二国間問題を処理する。
- 米中ともアジアに覇権を求めず、覇権主義に反対する。
- 「中国は一つであり、台湾は中国の一部である」との中国の主張を米側が認識したこと。
- 米中の関係正常化はアジアと世界の緊張緩和に貢献する。
覇権主義とはソ連のことをいい、米中ともソ連を強く意識していた。
米国は、中国の経済發展が進み、国民の生活水準が向上すれば、中国の共産党体制も次第に民主主義体制に近づくだろうと、長らく楽観視していた。
オバマ政権の初期まではその傾向が強く、オバマ・習近平、両首脳の会談で、太平洋勢力圏を両国で2分する案も検討されたという。一時2Gという言葉が流布された。急激に成長する中国の経済と軍事力に驚いた世界は、近い将来、覇権国家はアメリカから中国に移行するのではないかとまで噂された。第2次大戦後、世界の覇権国家がイギリスからアメリカに移つたと同様、今回は中国に移るのではないかという風聞である。中国はその勢いに乗じ、諸外国に対し、覇権的姿勢をあらわにしてきた。
トランプ政権は,中国のそのような姿勢を見て、次第に中国観を変化させ、対抗姿勢を鮮明にした。何事にも世界一を自負する米国民の必然的な反応である。
バイデン政権発足時、アラスカで米国および中国の外交トップが会談で、ブリンケン国務大臣は、今後の対中外交施策に関し米国の基本姿勢を次のように説明した。「バイデン政権の対中政策は3つのカテゴリーに分類される。第一は協力できる分野(Cooperative)、環境問題など、第2の分野は競争分野(Competitive)。経済など、第3の分野は対峙する分野(Adversary)、チベット問題など」と宣告し、是々非々の対応を取ると思われた。しかし、その後の進展を見ると、バイデン政権も徐々に封じ込め政策に転じ、特に先端技術分野では。中国締め出しを実行している。議会では共和党、民主党両党ともに対中国強硬姿勢である。
昨年11月サンフランシスコで開かれたバイデン大統領と習近平主席の首脳会談でも、台湾問題については両者の主張は平行線であり、米国の先端技術封じ込め政策は堅持された。この会談で唯一合意されたのは、両国間軍のトップ間における意思疎通を目的とした、相互会話が再開されたことである。
中長期的にみれば、中国が現在の膨張政策を継続する限り、両国間で宿命的対立は続くだろう。特に台湾問題は、極めで深刻だ。習政権にとって、台湾併合は、政治的悲願である。然し、民主主義体制を享受している台湾国民は中国に併合され、共産主義化されることを望まない。特にホンコンが中国に返還された後の香港の推移を観測した台湾国民は、一層拒否反応を強めている。そのような台湾国民の希望を無視し、万々一、中国が武力で台湾を併合しようとした時、米国がどのような対応を示すのだろうか、全く予測できない。今、台湾海峡で緊急事態が発生していないのは、正に米国の態度のこの曖昧さである。流石に中国も今は慎重にならざるを得ない。
- (注1)中国は、潜水艦、空母、戦闘機、無人機、AI兵器などで戦力増強を確実に進めているが、規模では米国に大きく遅れているし、中国軍隊には実戦経験がほとんど無いことが弱点と言われている。実際、中国は75年前の朝鮮戦争以来、戦争に参加していない。但し、中国はその欠点をAIで補完しようとしていると噂されてる。
- (注2)BUSINESS INSIDERによる各国軍事力の比較を見ると、1位アメリカ、2位ロシア、3位中国、4位インド、5位イギリスとなっている。然し、経済力の差から近く中国がロシアを抜いて2位に浮上するのは間違いないと想像される。
- 2023年度国防予算額では、米国 7,617億ドル、中國2,300億ドルと、アメリカは中国の3倍の大きさである。但し、アメリカはヨーロッパ、中東にも軍隊を派遣しており、アジアだけを見ると、その戦力差は縮小されると見られている。
- (注3) 中国の脅威は、軍事面だけでなく、「孫子」以来の伝統的戦略である謀略活動である。中国は、アメリカ、日本をはじめ世界主要各国に謀略活動家を配備しているとの噂である。 以上